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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)156号 判決

事実及び理由

一  原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由)については、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決取消事由の存否について検討する。

前記争いのない審決の理由によれば、審決は、昭和五五年一二月一〇日付で通知された拒絶理由、すなわち、「本願考案はガラス繊維ネツトを補強材として用いる点で第一引用例記載の考案とは一応相違するが、第二引用例には、網状体を中間層とし、その上下に合成樹脂シートを積層した曲げ剛性、耐衝撃性等の改善された複合材料が記載されており、該網状体は金属、合金、ガラス繊維等で形成できることが記載されているので、第一引用例に記載されて公知のネツト補強ポリ塩化ビニル製板の金網に代えて、ガラス繊維ネツトを用いることは当業者がきわめて容易に行うことができるものと認められる。そして、前記のとおり、第二引用例にはガラス繊維ネツトにより合成樹脂積層板が補強されることが記載されているので、ポリ塩化ビニル製板においても同様に補強されるであろうことは予測できることであり、本願考案において(ポリ塩化ビニルとガラス繊維ネツトとの組合せにおいて)特別の効果が奏せられたものとは認められない」との理由によつて、本願考案についての実用新案登録願を拒絶すべきものとしたものであり、その挙示する前記一応の相違点以外では、本願考案と第一引用例記載の考案とは一致しているとしたものであることが明らかである。

そこで、以下、右の拒絶理由に照して、原告主張の審決取消事由の当否を考えることとする。

(一)  相違点の看過の主張について。

原告は、審決は本願考案における重要な構成要件であるガラス繊維ネツトのメツシユ数を三~一五メツシユの範囲に限定した点を念頭におくことなく本願考案を第一・第二の各引用例と対比していると主張する。

成立について争いのない甲第一一号証によれば、第一引用例には、「近時、合成樹脂波板は建材用として一般に普及されつつある。ことに硬質塩化ビニル樹脂は、透明軽量で燃えにくく、耐候性も良好であり、しかも比較的割れにくいという利点があり、光線取り入れ用の波板に家庭、工場、作業場等に広く使用されている。しかし火災時、熱気に触れると軟化して変形したりあるいは燃焼が起るとき燃焼物が脱落する危険がある。また衝撃に対して比較的脆い欠点がある。かかる欠点を是正するため、金網を挟んで合成樹脂シートを積層強化する試みがなされているが、この場合普通の金網が使用されるので、その金網の縦横針金の径は同一である。」(同号証一頁左欄九~二〇行)との記載及び「例えば、針金の径が〇・六mmの場合には網目を八メツシユにすれば差支えない。」(同号証一頁右欄四、五行)との記載並びに「金網入合成樹脂板を製造する場合、先ず金網を挟んで合成樹脂シートを重ね、次いで網目と合成樹脂シート間に生ずる空隙を、加熱加圧により上下の合成樹脂シートによつて充填し、かつシート間の接着力によつて一体に接着するものである。」(同号証一頁左欄二八~三二行)との記載があることが認められる。そして、右各記載によつて認められる第一引用例に開示された技術内容と前記争いのない本願考案の要旨とを対比すると、本願考案と第一引用例記載のものとは、(1)硬質ポリ塩化ビニル製透光性波板における補強材として、本願考案が複数本の撚糸からなるガラス繊維ネツトを用いるのに対し、第一引用例のものが金網を用いる点及び(2)右ガラス繊維ネツトが三~一五メツシユの網目を持つのに対し、右金網が八メツシユの網目を持つものである点でのみ、一応相違するが、他の構成においてはすべて一致するものということができる。しかし、右(2)の点については、網目のメツシユ数が八メツシユの場合は、両者は一致するものであるから、これを両者の相違点とすることはできず、結局、両者の相違点は、右(1)の点のみであるといわなければならない。

ところで、審決は、第一引用例記載のものにつき、前記八メツシユの網目を持つものである点についてとくに掲記してはいないけれども、前記のとおり、右(1)の点で両者が一応相違するとし、その他の点で両者は一致するとしているものであるから、審決が本願考案と第一引用例記載のものとの対比において相違点を看過したとすることはできない。

以上の点に関し、原告は、まず、八メツシユのものが開示されても、三~一五メツシユのものが容易に推考される理由がない旨主張するが、本願考案における三~一五メツシユのもののうち八メツシユのものにつき容易に推考されるとされた場合、八メツシユ以外のものの容易推考性の有無にかかわらず、本願考案は全体としてその実用新案登録を拒絶されるべきものであるから、原告の右主張は、審決の取消事由に関しては無意味のものといわなければならない。つぎに、原告は、第一引用例における課題、解決原理が本願考案と相違することを容易推考性否定の根拠として主張するが、第一引用例に前認定のとおりの技術内容が開示されている以上、第一引用例の記載全体としての考案の課題、解決原理が本願考案のそれと異なつていても、それは、前記認定、判断の妨げとなるものではないから、原告の右主張も採用できない。

(二)  第二引用例における第一の事実誤認の主張について。

原告は、第二引用例における冷間塑性加工の定義中「融点以下」は「軟化点未満」と合理的に制限して解釈すべきものであるのに、審決は、第二引用例における冷間塑性加工をそこに記載されている定義の字句どおりに解釈し、その結果、第二引用例に記載の熱可塑性合成樹脂中に硬質ポリ塩化ビニルが含まれるという誤まつた認定をしている旨主張する。

しかしながら、仮に原告主張のように第二引用例における熱可塑性合成樹脂中に硬質ポリ塩化ビニルが含まれないと解されるとしても、後記のとおり、それは、本願考案は前記各引用例の記載に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたとする審決の判断に影響を与えるものではない。

すなわち、本願考案と第一引用例に記載の前認定の技術内容とを比較すると、前記(二)の(1)に挙示したように両者の相違点は前者が複数本の撚糸からなるガラス繊維ネツトを用いるのに対して後者は金網を用いる点のみにあるものである。

ところで、成立について争いのない甲第一二号証によれば、第二引用例には、「亀甲金網の如くいかなる方向へ応力を加えてもこの加えられた応力の方向へ引伸され変形を受け且つこの変形状態を保持できる形状の網目を有する網状体を、熱可塑性合成樹脂シート内に一枚又は二枚以上封入すると共に、この網状体は上記シートに使用する熱可塑性合成樹脂より常温でヤング率の高い材料により形成して剛性、耐衝撃性を向上させ更に冷間塑性加工性を向上させたことを特徴とする冷間加工用合成樹脂複合材料」が記載されており(同号証四四一頁左欄特許請求範囲の項)、右網状体について「上記網状体(4)はシート(2)(2)′に使用される熱可塑性合成樹脂より常温でヤング率の高い材料、例えば金属、合金、ガラス繊維、プラスチツク等により形成してある」という記載(同号証四四二頁右上欄五~八行)があることが認められる。第二引用例の右各記載によれば、網状体はガラス繊維で形成される場合があること、そして網状体は熱可塑性合成樹脂シートの補強材としての機能を持つことは明らかである。

そして、他方、合成樹脂類をガラス繊維で強化することが本願出願時において当業者の技術常識とされていたことは当裁判所に顕著なところであるから、第二引用例の右各記載をみれば第一引用例に記載の考案において用いている金網に代えてガラス繊維で構成されたネツトを用いることは当業者ならばきわめて容易に想到しうるものとするのが相当である。

そして、原告の主張する本願考案の奏する作用効果、すなわち、硬質ポリ塩化ビニルシートの熱融着性、透明性、外観・デザイン性、ネツト引張り目崩れの程度、耐候性等の点で優れた作用効果を奏するということは、ガラス繊維ネツト自体の性質から容易に予測されるところとみられ、これが格別顕著であることを認めるに足る証拠はない。

したがつて、結局、本願考案は、第一及び第二引用例に記載された技術に基づいてきわめて容易に考案することができたものというべきである。

以上のとおりであるから、第二引用例の熱可塑性合成樹脂中に硬質ポリ塩化ビニルが含まれるか否かは、審決の前記判断に影響を与えるものではなく、原告の右主張は失当というほかない。

なお、審決では「第二引用例記載の熱可塑性樹脂中にポリ塩化ビニルも含まれるものと解することができる」と説示しているが、本願考案と第一引用例記載の技術との相違点が第二引用例に記載の事実から容易に想到できたか否かが問題とされている本件においては、審決における右説示の当否は、審決の結論に影響を与えるものではない。

のみならず、冷間塑性加工の定義に関する原告の右主張は、それ自体も、相当ということができない。すなわち、成立について争いのない甲第一八号証の二及び弁論の全趣旨によれば、冷間成形とは常温付近での成形をいうものであり、また、融点以下常温付近までの温度範囲で行われる塑性加工には一般には冷間塑性加工と熱間塑性加工の両者が含まれることが認められるから、第二引用例における冷間塑性加工の定義それ自体は、一般に用いられている冷間加工の概念とは一致していないが、第二引用例における前記審決の理由に指摘された各記載によれば、第二引用例に記載の技術においては、熱可塑性合成樹脂の融点が冷間加工と熱間加工とを区別する基準となつていることは明白であり、また、第二引用例における右各記載は、前記冷間加工の定義とも矛盾しないから、第二引用例における「冷間塑性加工」は、第二引用例に定義されているとおり、融点以下の温度における固相状態での成形方法を意味すると解すべきものである。

(三)  第二引用例における第二の事実誤認の主張について。

原告は、(1)第二引用例のいう「網状体」としては亀甲網しかありえず、ガラス繊維を用いて実用に耐える亀甲網を編成することは不可能であり、(2)また仮に編成できたとしても変形状態を維持する性質は有しないから、第二引用例の発明の課題ないし目的に照らせば、「ガラス繊維」は第二引用例の「網状体」から除かれると主張する。

ところで、ガラス繊維が、通常きわめて微小なフイラメント径を有する繊維の集合体として使用されるものであつて、糸状体にしたものは織布などの製造にも用いられるように、有機質繊維には劣るとしても相当な柔軟性をもつものであることは、成立について争いのない乙第二号証の二により明らかであり、しかも、前記甲第一二号証によれば、第二引用例には、「上記網状体(4)は叙上の如く亀甲金網のような網目(3)が六角形のものが最も良好であるが、之れに限定されるものではなく、要するにいかなる方向へ応力を加えてもその応力の方向へ延伸変形しその変形状態を保持できるものであればよい」(同号証二頁右欄九~一三行)との記載があることが認められ、右記載によれば、網状体は亀甲金網のような六角形のものには限られないとみられるところ、このことと亀甲網であつても、同時に各方面の応力を加えた場合にその各応力の方向に同時に延伸変形しうるものではないこととを合わせ考えれば、ガラス繊維によつて亀甲金網の如く第二引用例における「いかなる方向へ応力を加えてもその応力の方向へ延伸変形」をするような網目を有する網状体を製造することが不可能であると断定することはできない。

したがつて、ガラス繊維を用いて実用に耐える第二引用例の網状体を編成することが不可能であることを前提とする原告の右主張は根拠を欠くものといわざるをえない。

また、前記甲第一二号証によれば、第二引用例には、剛性・耐衝撃性を向上させさらに冷間塑性加工性を向上させることを目的として網状体を熱可塑性合成樹脂シート内に封入すること(同号証、特許請求の範囲の項)及びその網状体について「上記網状体(4)はシート(2)(2)′に使用される熱可塑性合成樹脂より常温でヤング率の高い材料、例えば金属、合金、ガラス繊維、プラスチツク等により形成してある」こと(同号証四四二頁右上欄五~八行)の各記載が認められる。

ところで、前記のようにガラス繊維は相当な柔軟性を有するものであつて、このようなガラス繊維の構造体を封入した熱可塑性合成樹脂シートが成形できることは技術的にも矛盾はないと考えられるところであるから、仮にガラス繊維の網状体が変形状態を維持できないとしても、第二引用例の右記載が、少なくとも、ガラス繊維網状体が冷間成形用の合成樹脂シートに封入されるという技術事項を示唆していることは、当業者ならば直ちに理解されるところである。

したがつて、「ガラス繊維」が網状体から除かれるから第二引用例が本願考案を容易に推考しうる根拠とはなりえないという原告の主張は理由がない。

以上のとおりであつて、原告主張の審決取消事由は、いずれもその理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法の点はないといわなければならない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案に関する事項は左のとおりである。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年一〇月二日、名称を「ガラス繊維ネツトで補強した硬質ポリ塩化ビニル製の透光性波板」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和五〇年実用新案登録願第一三五六二八号)をしたが、昭和五二年一二月一六日に拒絶査定を受けたので、昭和五三年二月二三日これに対する審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第二八〇九号事件として審理した上、昭和五六年四月二三日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年五月一六日原告に送達された。

二  本願考案の要旨

三~一五メツシユの方形目、丸目、菱目その他所望の網目11を持つた複数本の撚糸からなるガラス繊維ネツト1を厚みの内部に具備してこのネツト1の上下に透光性硬質ポリ塩化ビニルシート2、3を右網目11の間隙内を通じて上下に熱融着一体としたガラス繊維ネツトで補強した硬質ポリ塩化ビニル製透光性波板。

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